村山沙耶香『殺人出産』を読んで

恋愛の先に妊娠がなくなった時代。技術が発達し人工的な妊娠が当たり前になった世の中では快楽の為にのみセックスが行われる。子作りと恋愛は完全に切り離されて考えられるようになる。恋愛の先に子供が出来ることで人口をそれなりにキープしていたが、それが無くなり人口の減少が予想された。そこで子供を産んでもらう為、恋愛感情に代わる人間のある衝動を利用することになった。「殺人衝動」だ。10人の子供を産んだ人は「産み人」として崇められ誰か1人を殺人出来る権利を得る事ができる。そんな制度が出来た当初は賛否両論議論が行われたが、しばらくするとこの制度は合理的だとなり当たり前のものとして扱われていった...

 

LGBTQなど性的マイノリティの存在が叫ばれる昨今、新しい恋人の関係が誕生する。「トリプル」だ。若者の間では、2人で付き合うカップルの時代は徐々に古いものとされ、3人で付き合うトリプルが先端だ。3人の性別の組み合わせは何でもいい。女男男、女女男、女女女...3人で付き合うと性別の隔たりなんてものは無くなる。キスは1人が120度を形成し3人で丸くなって顔を寄せる。セックスは1人が横になり残りの2人で1人を弄る。

 

医療技術が進歩し自然に死ぬ事がなくなった時代。事故や病気も治療が可能になり死ぬ事がなくなった。人は自分の死にたいと思った好きなタイミングで申請し安楽死をしていく。

 

『殺人出産』は上記のような話がいくつか掲載されている。正直僕は読み進めるのに苦労した。僕は比較的変化に柔軟に対応できる方だと思っていたがこれ程まで大きい変化になると抵抗があったのだ。今の段階ではこのような世界は想像できないし実現もしないだろう。けど、それを想像して物語を書いてしまう村山沙耶香に僕は驚愕した。

今この本を読むとこれは道徳的にいかがなものかと思う描写だったり理解できないものが多いが、それは今の世の中に蔓延する常識に囚われているからであり、世の中の常識は簡単に代わる。スマホだったりPCだったりインターネットだったりが誕生したのだって最近だけどそれがないのは今では想像もつかない。激動の時代である今は尚更、どのような変化が起きても不思議ではない。激動の時代を生きていくのが楽しみだ。